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プロニートの履歴書

色んなできごとに翻弄され、プロのニートになるまでの物語

3. 卒業後の身の振り方

短大を卒業しても、私には何のあてもなかった。

私が卒業する年は、はじめての就職難の時代に入ったと言われていた。しかし、そんなことは関係なく、私にはなりたいものがなかった。ただ、なりたくないものだけはあった。

それは、社会人である。

学生時代はクラスでの居心地が悪かった。漫画家の冨樫くんのようなもので、たまにしか学校にこないのに勉強だけはできたのだ。といっても、私の学科はデザインである。つまり、絵だけは誰よりも描けたのだ。

 

というよりも、絵しか描けかったのだ。デザインのクラスに出席すると「この中で社会に出てこのままデザイナーとして使えるのは空野ぐらいよ!」と、教授が他の生徒にはっぱをかけるのがいたたまれず、肩身が狭かった。

けれども、私は若さも手伝って調子にも乗ってもいたのだ。その教授の言う通りに私がどこに行っても通用するのなら、「飛ぶ鳥は絶対に落とせる!」と言わんばかりに、地場産業のデザイナーにはならない!と、若気の至りで本気で思っていたのだ。

 

もともと私は専門学校で絵の勉強をしたかったのだけど、「最低でも短大、専門学校には行ってはならない」という親の言いつけを守って、短大でファッションデザインを修学することしたのだ。子供の頃から、洋服にだけはうるさかったのだけど、デザイナーになりたいとも思ってなかった。ただ、洋服が異常に好きだった。

 

 

学生時代は湯水のように洋服のためだけにお金を使った。仕送りとバイト代のすべてを洋服代にかけたと言ってもいい。

週末になると、翌週の買い物に行くための洋服を買いに行く。その繰り返しだった。道を歩けば、道行く人がどんなところで洋服を買って、総額がどれぐらいなのか大体見当がついたし、そうやって着ている服の値段で人と自分を値踏みしたほどだった。

学校の授業中はその日の夜遊びするための服を慌てて仕上げたり、いかに普通に洋服を着ないか、毎日どんなコンセプトを持って着る服を選ぶかとか、そんなことばかり考えていた。

朝、遅刻してクラスに入ると、「おおっ!」となるクラスメイトと、その服の着こなしに嫌味をいう教授との戦いが私の学生生活だった。

 

 

そうして卒業式後、びっくりしたことに私には何もなかった。

卒業前は面倒だったので「卒業したらミュージシャンになる」と言っていたのはいいのだけど、どんな音楽活動をしていたわけでもなく、卒業したからといって「はい。では、あなたは今日からミュージシャンです」と就職するようになれる職業ではないのだ。

 

そして、私にはお金がなかった。

もはやミュージシャンどころの話ではない。生活するお金が消えていたのだった。

 

人生はじめてのピンチである。

 

慌てた私が飛び込んだのは、手短な近所のレンタルビデオ屋さんである。レンタルCD部門でアルバイトを募集していたのだった。

これはもういわゆる普通の学生のアルバイトで、近くに住む大学生らがわらわらとバイトしていて、年も同じか年上かなので、私もみんなと一緒でまだ大学生気分だった。

彼らと同じように店の中でお客さんの対応で遊び、店の外でもつるんで遊び、夜は飲みに行き、同じように遅刻して、同じように無断で休んだ。

 

懸命な方はここでお気づきでしょうが、その中で私だけがクビになった。

長年そこでバイトしている学生と入ってきたばかりのフリーターが同じ行いをやってはいけなかったのだ。

 

私はバカだったので、そんなことには気がつかず、どうしてみんなと同じことやってて私だけが悪者なのか…と、まったく理不尽な気持ちだった。みんなちゃんと世の中うまく渡っているのだ。

 

 

 

そうして、私は次のアルバイトを探すことにした。

ここはひとつまじめにミュージシャンの道を歩もうと、なるべく音楽に近いアルバイトを探したのだ。そこに運良く、とある楽器屋さんがアルバイトを募集していたのだ。

面接に行くと、性格判断テストというのを受させられて、わけのわからない質問を何十問もやらされ、その判定がよかったのか見事採用となった。

 

 

ひとまず、よかった…と、遠くの友達に手紙を出そうと夜道を歩いていると、男の子が声をかけてきた。

 

「その靴かっこいいね。どこで買ったの?」

 

と、知らない男の子は言った。ガンダムのような真っ赤なブーツを履いていた私を彼は男の子だと思って話しかけてきたらしい(私は当時、男か女かわからないような中性的な感じで、どちらかというとよく男の子に間違われた)。

それをきっかけに私たちは歩道橋の階段に座って、しばらく自分たちのことを話しこんだ。彼はライブハウスに出入りしている男の子で名前をケイスケといった。私は音楽が好きで音楽をやりたいんだけど、どうしようかと考えてるところだと相談すると、

 

「友達がバンドのメンバーを探してるから、音楽やりたいなら一緒にやれば?楽器屋さんで働いてる子だから会いに行ったらいいよ」

 

とケイスケは言った。

 

 

その楽器屋は、まさに翌日から私がバイトする楽器屋さんだった。

真夜中の歩道橋で、私は狐につままれたような気分になった。