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プロニートの履歴書

色んなできごとに翻弄され、プロのニートになるまでの物語

5. 最初で最後の就職

楽器屋さんでバイトしていた私は、どこかに就職したいと思い始めた。

それは同級生がファッション業界で生きていたことが羨ましかったのか、それとも『就職』というのがやってみたかったのか、多分、どちらもだと思う。

それに音楽をやる道はバンドをやるということで、ひとまず気持ちの整理がついたのかもしれない。

とにかく、私は『就職』というのをやってみることにした。

 

結果的には、正式に正社員として雇用されたという意味で、これは私が最初で最期に就職したただひとつの仕事ということになる。

 

といっても、就職活動すらしなかった私がどうやったら『就職』というものができるのかもわからず、考えた末に浅はかにも卒業した学校へと足を運び、仲の悪かった教授室へと行って、「今さらですけど、やっぱり就職したいと思うんです…」と、相談したのだった。これには助教授たちの冷笑を買った。どの顔さげてここに来たの?という冷たい対応に、あぁ、本当にすみません。私が本当に悪かったんです。何も考えてなかったんです…。本当にすみませんでした…。と謝るしかなかった。

ところが、意外にも優しくしてくれたのは、一番厳しかった教授だったのだ。まぁ、簡単に言うと、「もう卒業生に出来ることはないけど、がんばりなさい」とそれだけの言葉だっただったものの、それは私を十分励ました。嫌なやつだと思ってたけど最後はいい人だったんだなぁ…と私を感動させるほどに。

 

それに私はまだ知らなかったのだ。

新卒と中途採用ではその価値が全く違うということを・・・。

 

これはもう自業自得なので、私は自力で就職先を見つけることになった。出来るだけ自分が知ってる名前のアパレル企業を探し、面接に行っては学生時代に得意だったことや、好きなブランドや方向性を話して回ったのだった。私はアバンギャルドなブランドが好きだったので、面接の担当者ですらそのブランド名を知らないということさえあって、もう私にはどうしていいのかもよくわからなくなっていた。

最終的に採用されたのは、まあまあよく知られている(が、決して注目されているわけでもない)ブランドで働くことが決まったのだった。

 

 

そうして、私は楽器屋さんのアルバイトを辞めることにした。

私の『就職したいんです欲』を汲み取ってくれて、店の店長もみんなも快く私を送り出してくれた。一緒に働いていたバンドのメンバーも私の新しい門出を喜んでくれた(しかし、メンバーらはこの先何度も私の新しい門出を見ることになるのだけど…)。

 

 

 

さて、『就職』というのは、私にとって一体なんだったのだろう?

正社員になることが何だったというのだろう?

 

楽器屋さんで働いていたように同じように接客し、お客さんに満足してもらい、売上を数え、報告をする。

少しだけ違うのは、責任感だとは思う。ただ楽器屋さんとは違って、情熱という意味では洋服の販売に情熱を注いでいる人はいなかったように思う。大きなファッションビルの中にあった私の店舗や周りの店舗にもそういう人は見当たらなかった。そして、ファッションの勉強をしていた人というのもいないようだった。私にはどうしてその人たちがそこにいるのかよくわからなかったし、この人たちは何が好きでここで働くことにしたんだろう?といつも疑問だった。少なくとも洋服に興味がある人たちなんだろうけれど、洋服の知識がある人はほとんどいないのだった。

 

そんな中でエキセントリックな学生時代を送っていた私のファッションセンスはさらに浮いた。店の洋服を着ているのに、その着方が普通ではないのだった…。私の中で洋服を着る提案をするというのは、そういうことだったのだ。

 

あぁ、なんて無難に生きていけない性格なんだろう。

新しくなくては、既存を壊さなければそれはファッションではない!とすら思っていたのだ。

 

(今では、クラシックというのも、コンサバもオールドスクールも、テイストとして、生き様としてもアリだと思ってます。はい)

 

 

そうして、半年そこで働いた頃、私の店舗は駅前の百貨店へと移転することになった。この辺りから自分のやっていることがよくわからなくなってきた。ファッションやってて、なんで百貨店の行事などに参加せねばならんのだ…と本気で嫌になってきたのだ。

要は面倒くさくなったのである。それに、同時に始めていたバンドの活動にも目が覚めはじめ、気分的には仕事を取るか、音楽を取るか...、という大げさな気持ちにまでなっていた。

 

 

ここで私が選んだのは音楽だった。

あっさり音楽を選んで、私の就職はそれが最初で最期になった。

 

 

今思えば、私はここからニートの道を歩みはじめたのかもしれない。

 

 

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