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プロニートの履歴書

色んなできごとに翻弄され、プロのニートになるまでの物語

11. ピンク色の渋谷からヨーロッパへ

私が六本木のレストランを辞める少し前に、友達が夏はヨーロッパに行こうと持ちかけてきた。ひとりはニューヨークから、もうひとりはアジアを旅行中の2人からだった。それぞれ遠く離れたところに住んでいるので、ヨーロッパで落ち合おうという話だった。

そのしばらく会っていない友達に会いたければ、私は勇気を持って小さな一歩を踏み出さなければならなかった。その一歩を踏む出すかどうか、私は一週間、悩みながら夕方の街を歩き続けた。

 

今度はイメクラだ。イメージクラブという風俗にやってきたのだ。

(*ここで「また?」とお思いの方もいるかもしれませんが、私も心の中では「またここか…」と思ってます。これが最後なのでご心配なく)

これはお店を探すまでもなかった。少し前に渋谷を歩いていてスカウトされたのだ。その時は名刺をもらって、「じゃあね」と別れたままだったのだけど、いつか本当に困ったらその時はそうしようとその名刺を取っておいたのだ。そして今、私にはその困った時がやってきたのだった。

 

私はまた相変わらずなお客さんの相手をすることになった。ひとつだけ違ったのは、個室が与えられたことだった。なので、お店にいる間はお客さん以外の人には誰にも顔をあわせることなく、店の女の子や従業員と話す機会もなかった。それでも薄い壁の向こうからは情緒不安定な女の子の声が聞こえてきたりするのだ…。気持ちはよくわかるのだけど、それでも彼女らはずいぶん脆かった。それにそういう女の子たちは人気があった。多分、人として魅力的だからかもしれない。

あまり周りを気にかけないよう、空いてる時間は静かに漫画を読み、持ち込んだパソコンで遊び、壁の電話が鳴れば準備をはじめて、はい、いらっしゃい。そして、さようならを1日に何度も繰り返す。

 

ひょっとしたら、これを読んでいる人は風俗は楽な仕事だと思っているかもしれませんが、楽な仕事です。体力を使う場面はたくさんありますが、楽な仕事ではあります。そうして、身をやつしていく女の子もたくさんいます。精神的に不安定になっていくのです。なのであまり長く続かないんですね。さっと働いて、さっとお金を得るにはいい仕事ではあると思います。でも、誰にもおすすめはしません。もっと大切な時間の使い方があるからです。

 

 

私も3度目の風俗となると慣れている感はあるのだけど、その道に入ろうとしているわけでもない。でも、続けていると抜け出せなくなるんじゃないかという不安も常に付きまとう。それにそんなことをやっていても、私は適当に働くというのが苦手だった。目の前にあるものに100%の力を注ぎたいタイプだった。素敵な服を着てお酒を注いで駆け引きをするよりも、裸ひとつで付き合える関係の方が私には気が楽だったのだ。それに大抵の場合、お客さんはとてもいい人たちだった。出会いが裸なのでそこでの話しも悩みも、その人の丸裸のままなのだった。

 

 

そうして夏がくると、私はヨーロッパへと飛び立った。2ヶ月をエーゲ海で過ごし、帰りの飛行機がなかなか取れずに何カ国か飛行機を乗り継いでやっと帰国できるというハプニングもあったのだけど、とにかく私は帰ってきた。渋谷のイメクラへ。

私には他に帰るところもなかったのだ。

 

しかし冬がきて、お客さんの数がごっそりと減った。冬は減るんです。寒いですから。私の給料は歩合制だったので、人がこなければ給料もない。どれだけそこにいても何を手にするものがない日が続いた。それから何ヶ月かが過ぎ、耐えて、耐えて、耐えて…耐え抜いて、とうとう私は本当に耐えられなくなった。精神的にも金銭的にも。風俗をやっててお金がないという身も蓋もない話しになってきてしまった。

 

私はどこかに行かなければならない。すぐにでもここを出て行かないと明日は生きていけない!そう思った私は目の前の雑誌から求人広告欄をやぶき、仕事が終わってからその電話番号に電話をかけた。

 

「明日にでも面接に来ることはできますか?」と、電話の向こうの人は言った。私は静かに、闇の底にも響きそうな声で「はい」と答えた。